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稔磨はつかつかとシノに歩み寄る。
眼差しは鋭く、厳しく、彼が敵と認識したモノに対して向けるものだ。
しかし、普通の人間なら萎縮してしまうような威圧感に対してもシノは物怖じする気配はない。
無言で彼の視線を受け止めているだけだった。
「ねぇ、キミ、本当に死神?」
稔磨は単刀直入にそう訊いた。
彼の手は刀の柄に添えられている。
“つまらない冗談だったら斬る”と言外に述べていた。
(はい、確かにあたしは死神です。何なら試してみますか?)
「あぁ、よろしく。実験台は晋作で」
(わかりました。では、)
「俺を勝手に実験台にすんなゴルァ!」
殺 す 気 か!
晋作が叫ぶと鎌を振り上げていたシノはそれをあっさり下ろした。
(と、いうのは冗談です。原則は上から命令のあった人間の魂しか引き取れません。今回はこの老爺だけが対象でしたし)
「……悪趣味な冗談だな」
晋作は憎々しげにシノを見つめるも、自身の命があることにひとまず安堵した。
シノはと言うと晋作、玄瑞、稔磨を順に頭のてっぺんから爪先まで舐めるように観察している。
逡巡の後、シノは三人を見据え、重い口を開いた。
(ここで巡り会ったのも何かの縁。本来は死神としてあまり褒められた行為ではないんですけど天に戻る前に一つ教えてあげます)
吉報か、凶報か――。
一同は固唾を呑んで彼女の次の言葉を待つ。
(死神は来世の者です。死神であるあたしが見えるということはお兄さん方三人は常人に比して現世より来世に近い位置にいるということ。つまり死期が近いです。事故か事件か病死か、何故死ぬのかはわかりませんが余命は短い場合は数ヶ月、長くとも数年。遅かれ早かれあたしに魂を刈られるでしょう)
それは明らかな余命宣告だった。
もう残りの命は永くない、と。
(じゃあ、あたしはあまり下界に長居したくないのでこれで。お気を付けて)
シノが手を上げるや否や彼女の身体は砂粒が風に流されるようにして消える。
彼女の姿が完全に消え失せた後も、しばし三人の間には沈黙が降りていた。
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