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好戦的な笑みを浮かべ、レオンハルトが八岐大蛇と呼んだ巨大蛇に畏れる事も躊躇う事もせず、 一人それこそ童話や英雄伝の中で描かれる英雄のような絵面で正面から立ち向かって行った。 八岐大蛇には8つの頭があるが、司仙子龍は八岐大蛇1頭の重量を上回るであろう【武身】を普通の刀と何ら変わらぬ軽さで振り回す。 戦闘の光景や音、撒き散らされる衝撃波は最早災厄と例えても良いものではあるが、 両者の総合的な力量は互角のため一進一退の攻防が繰り広げられ膠着状態に陥る。 「愛、今からオレが言う事を良く聞いてくれ。」 それを見て暫くならば司仙子龍一人で八岐大蛇を抑えておけるだろうと判断したレオンハルトは、 腰に抱き付いていた愛を優しく引き離し、今度は膝を折り目線を合わせて強めに抱き締めた。 「多分美佳さんは教えてないだろうから愛は知らないかもしれないが、 ほぼ間違いなくお前はあいつらの言う通り旧成宮家の生き残りだ。」 自分がこのように衆目に曝され殺される事になった理由を一番否定して欲しかった者に間違いないと断定され、 目の奥が熱を持った愛は咄嗟にそれを否定しようとする、が。 息苦しいと感じる程に強く抱き締められ 胸を潰されて言葉を封じられ、 恋人が愛を語らうような甘美な声を用いて耳元で囁かれるレオンハルトの言葉には逆らい難い響きが含まれていた。 そしてレオンハルトは、首筋や耳にかかる息で体をビクッと震わせる愛の反応を楽しむように言葉を続ける。 「子龍とあと2人の英雄、ついでにオレも加えておこうか。 あいつらが敵対した場合かなり厳しいものになるだろうが、恐らくこの闘いオレ達は"勝つ事は"できる。 それで今この大和国を牛耳ってる藤原家を排除して、 成宮家が復権してめでたしめでたし─────と、なってくれれば良いんだけどな。 勿論、そうならないとは言わない。 子龍の名演説の中にあったように、勝てば正義で負ければ悪。 この単純明快な法則にはオレも賛成だが、人間って言うのは正当性を求める生き物でもある。 このまま勝利したとしても、所詮オレ達は力で国を奪った略奪者としかならない。 それじゃあこの先国を纏めるのにも苦労するだろうし、反乱が起きる可能性も否めない。 だから、オレ達を"正義"に。 今までの大和国を"悪"に仕立て上げるための正当性が必要だ。 幸い、その正当性を示すための鍵は今オレの手の中にある。」
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