本作品679ページからです

12/75
前へ
/130ページ
次へ
「茂久、お前がその小僧を気に入っている事は知っているが、一国の武を預かる者として成すべき事は分かっておろうな?」 「分かっている、お前に言われんでも分かっている。 ……………………殺せ、その大罪人旧成宮家に与す者──レオンハルト・スターダストを。 そして予定通り、今度こそ確実に処刑を行うため次は式を用いて──────」 「へぇ、殺す? オレと、愛を?」 心の臓に氷の杭を撃ち込まれるかのような殺気。 茂久成親の全陰陽師への指示を遮った声は地の底から響いて来たかのように冷たく、そして底知れぬ巨大な何かが見え隠れする。 広場にいる経験が乏しい若手の陰陽師はその殺気に、 武の道に長い老齢の者や実力のある者は目の前にいる"人の形をしたもの"に潜む巨大な何かによって、 全身手足の指の先に至るまで凍結したかのような錯覚に襲われ身動きが封じられる。 「オレだけなら何時殺しに来てくれても、どれだけ殺しに来てくれても構わない。 どうせ週一で来る死神のスケジュールが詰まって週三とかになるだけだし、 今更国一つ敵に回した所で今と然程変わりはしねぇよ。」 だが、と言葉を切ったレオンハルトは左腰に挿していた《断魔》をゆっくりと引き抜いた。 まだ先程の血に刀身が濡れる《断魔》は日の光を受け底冷えするような、 それでいて見る者を惹き付ける怪しく妖しい輝きを放つ。 「見えるか、これは"死"だ。 オレの腕の長さと刀身、そして踏み込みを考えても間合いは精々2m有るか無いかという程度。 だが、この"死"の一振りは確実に一人を殺す。 そしてこの"死"の対象はオレの敵と、敵と成り得る全ての者。 つまり、オレの大切なものに矛を向ける者とその家族・友人・恋人────お前らを構成する全てだ。 これはハッタリじゃあない。 オレはかつて報復のためにある研究所を土砂崩れに飲み込ませ、 騎士の特権を乱用して人身売買をしていたクソ野郎達の居座る村に毒をばら蒔き、 ついこの間もオレの可愛い妹を誘拐しやがった海賊4000人を一人残らず洞窟内で焼き殺した。 運の良い事に、この国の建造物は大体が木製だからな。 風の強い日に油でも撒いて大火事を起こしてやっても良いし、 魔境の血に飢えた魔獣をこの国に誘き寄せる事だってできる。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

617人が本棚に入れています
本棚に追加