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……………………オレの大切なものに手を出すって言うのはこう言う事だ。 自分に関わる全ての者の首をこの"死"の白刃の下に曝す。 その覚悟ができた奴から掛かって来い。 オレはお前らの全てを喰らってやる。」 トレジャーハンターという職業柄交渉術も必要となるためレオンハルトは饒舌で滑舌も良い方ではあるが、 別段声が鈴の音のように通る訳ではない。 しかし、大切な者を失い"レオンハルト・スターダストという人間を殺さない"ために。 誇りや完全なる勝利を示すためという上位に位置する欲求ではなく、 "そうしなければ自分が死ぬ"という生物の究極的な本能に基づく本気の殺意。 その殺意を乗せられた言葉は空間自体に浸透するように、現時点で敵と認識されている者達の耳にしかと届いた。 そして旧成宮家の勢力が全員捕らえられ自分の脅威となるものが無くなった今、 命令されたからここにいるに過ぎない陰陽師達はその殺意に立ち向かう必要は無い。 故に自らを危険に晒してまで動こうとする者はいない。 そう、ただ一人を除いて。 「闘う意志が無いのならば、退け。」 個人の本気の殺意が作り出した張り詰めた膠着状態の中沈黙を破り人の群れを割って現れたのは、 武の名門司仙家の嫡男にして歴代最強と謳われる司仙子龍。 血筋ではなく偶発的に英雄という身体的特徴を持って生まれ、 人間の枠を超えた力を持ちながらも一度完膚なきまでに敗れた彼は再戦に臨むようにレオンハルトの前に立つ。 「少女一人を救うために国一つを敵に回すとは、中々大それた事をする。 例えそれが永久の愛を誓った想い人であったとしても、このような事ができるのは恐らくお前くらいであろう。」 しかしレオンハルトという殺意の塊を前にしているにも関わらず、 司仙子龍はまるで日常会話でもするかのような気軽さで語りかける。 「…………………御託は良い、この場に於いて必要なのはお前がオレの敵かどうかという事だけだ。」 「まあ聞け、時間は然程取らせん。 これはオレの持論だが、正義とは勝者を指す。 仮に、民にとっては理想的な統治者がいたとしよう。 その理想的な統治者が治める国に、残虐非道な事を行う者が攻め入りその国を奪ったとする。 この時点で人道的には正義と描かれるべき理想的な統治者は負けたがために悪となり、 本来ならば悪人とされるべき奪略者が正義となる。
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