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背を向けているので顔は見えないが笑っている事が容易に分かる確信を持った声で言った司仙子龍に、 レオンハルトはバツが悪そうに答える。 「……………………どう転ぶかも分かんねぇ大博打が一つだけ。」 「十分だ。 むしろ絶対に勝てる要因があってはつまらん。 勝つか負けるか、そのギリギリの瀬戸際でなければオレがこちらに付いた意味が無い。」 自分の居場所を裏切り自ら窮地へ飛び込んだにも関わらずこれまでなく楽しげな司仙子龍をレオンハルトは鼻で笑い、 「馬鹿だよお前。 面白いか云々で国一つを敵に回すなんて正気の沙汰とは思えねぇな。」 「オレが馬鹿ならば、この道を拓いたお前は超が付く大馬鹿者だ。」 「一時のテンションに身を任せる奴は身を滅ぼすぞ?」 「それもまた一興。 雄大なる大空(せかい)を知りながらも、狭き箱庭(とりかご)に居続けなければならない退屈さより遥かにマシだ。」 駄目だコイツ。 呆れ果てたように頭を抱えて呟きを漏らしたレオンハルトは処刑台の階段に足を掛け、 「子龍、暫くここを任せた。」 「任された。 この状況をも覆す大博打とやらを期待して時間を稼ぐとしよう。 それまでは鼠一匹とて通さん。」 頼んだぞ、と。 国家戦力という敵のいる背中を司仙子龍に預けたレオンハルトは、 大逆転の大博打に臨むべく処刑台の階段を駆け上って行った。 「…………………司仙子龍、これは一体どういう事だ?」 完全に信用していたレオンハルトと、 生粋の公家で家の名を貶めるような事はするはずがないとその可能性を考えすらしなかった司仙子龍の裏切り。 余りにも予想外の事が立て続けに起こった事で逆に冷静になった茂久成親は、 端々に例えようの無い怒りを滲ませる静かな口調で大和国にとって最大の脅威と化した者の背中を預かった司仙子龍に問う。 「はて、これを見て他にどう言った解釈ができるのであろうか? 有ると言うならば是非ともお聞かせ願いたい。」 しかしこれを引き取ったのは茂久成親ではなく、司仙子龍の祖父である司仙影虎。 「…………………子龍、貴様気は確かか?」 実の孫が自らの国に反旗を翻したその怒りたるや、恐らく言葉にも表せないものどあろう。 何かを堪えるように目を閉じている司仙影虎の体は小刻みに震え、唇からは一筋の血が垂れている。 「ハハッ、孫に気は確かかとはお祖父様も中々に酷い事を言う。」
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