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何故ならば。 「─────────え?」 玉司雪の背中に銀色の刃が生えていたから。 恐らく自分の身に何が起きたのか理解しないままに玉司雪の体から力が抜け、 カクンと首が横に倒れ目から光が失われる。 「…………………敵は敵でも一応は女だからな、せめて最期を苦痛で醜く歪んだ顔で飾らないよう散り際は一瞬で。」 目を見開いたまま事切れた玉司雪の瞼を閉じてやったレオンハルトは、 今更のように卓馬とその後ろで目の前の惨劇に身を震わせている紗耶香を見付けそちらへ向かった。 レオンハルトが歩み寄って来る間酷く脅えた様子で視線を宙に泳がせていた卓馬であるが、 あと少しで到着という所で意を決して立ち上がり紗耶香を守るように前へ出る。 「……………今回の事に、姉ちゃんは関係ないから。」 自分がどんな報復を受けようとも決して紗耶香にはそれが及ばないようにと先に断った卓馬は、 レオンハルトが自分の前に来るまでにある僅かな猶予を利用して言葉を紡ぐ。 「………………守りたかったんだ。 たった一人の肉親を……………父さんと母さんが事故で死んでから、僕をここまで支えてくれた姉ちゃんを。」 そして今の吐露で堤防が崩れ たかのように、卓馬の中に次々と言葉が溢れる。 「そうだよ、守りたかったんだよ!!! 街の皆よりも、いつも一緒にいる友達よりも………………………レオンさんよりも。 姉ちゃんだけは、姉ちゃんだけは!!!」 ついに目の前まで来たレオンハルトの威圧に卓馬は言葉を詰まらせるが、しかし絞り出すようにその先も紡ぐ。 「………………分かってるよ、そりゃ分かってるさ!!!! 自分の大切なものを守るためにレオンさんを犠牲にした僕が間違っ─────」 それだけは、それだけは言わせないようにと疲労が滲み出た鈍い動きをしていたレオンハルトが電光石火の如く動き、 腰の回転も加えたその右拳で卓馬の頬を捉えた。 「あグッ──────」 殴り飛ばされた卓馬に駆け寄ろうとした紗耶香を睨み留めさせたレオンハルトは、 卓馬の傍に来てしゃがみ目線を合わせる。 「卓馬お前さ、紗耶香を助けるためにオレを裏切った自分が間違ってるとか思ってねぇよな?」
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