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訳が分からなかった。 穢多と蔑称される賤民階級の者が集められた粗末な避難所に目を血走らせた兵士が押し入り、 無抵抗にも関わらず何度も殴られ蹴られ母親の美佳共々捕らえられた。 更にこうなった事情を知っているらしい美佳とは離され、自分だけがこうして処刑台の上で後ろ手に縛られ両膝を着かされている。 何故? それを聞こうにも処刑台の上にいるのは自分だけで、 衆人の前にこのような格好で晒される恥ずかしさと数万人の攻撃的な言葉と雰囲気とで先程から涙が止まらない。 そして大規模な祭で使用されるかなりの広さを持つ広場の端の高台に処刑台が設置され、 各地の避難所に避難していた住民達が誘導され続々と集まり始めてから約一時間。 それなりの地位にいると思われる小肥りの中年の男が処刑台の下に来ると、僅にざわめきが収まる。 「見よ、この者が15年前にこの国を危機に陥れようとした逆賊旧成宮家の生き残りだ!!!! そしてこの者は今日、残存勢力を率いて愚かにも国家転覆を謀った!!!!」 「───────旧成宮家? ち、違う、私そんなの知らない!!! こ、こんなの何かの間違いだよ。 だって私は鈴野愛、成宮家なんかじゃないよ!!!!」 しかし愛の必死の叫びは数万人の怒りや恨みの声に掻き消され、 中年の男は時折民衆の正義に訴えかけるような話し方で当の愛には全く身に覚えの無い罪状を次々と述べる。 「我が国の優秀な陰陽師達の力で何とか賊を全員捕らえる事に成功したが、その過程で少なからず殉職者を出してしまった。 戦士達だけではない、賊共が初め西地区を制圧するために屋台の食物に盛った毒のせいで民間人にも多くの犠牲者が出た。 恐らくその犠牲となった者の中にはここにいる者達の家族や友人もいた事であろう。 ……………許せるか? このような己が私欲で家族や友人を奪った者を許せるか? いや、許す事などできるはずがない!!!! その罪は、死を以て償うべきであろう!!!!」 中年の男が高らかに言い放った直後、広場全体が歓声に包まれた。 愛の姿が見えるのは最前線とその後ろの列程度ではあるが、 数万人が一斉に年端もいかぬ少女に対して死ねや償えや殺せ等の暴言を浴びせる。 まるで世界に自分が一人だけになってしまったかのような恐怖。 しかし、駄目押しのように更なる恐怖が訪れる。 ギシ、ギシと。
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