617人が本棚に入れています
本棚に追加
恐怖を煽るように一段一段ゆっくりと、処刑執行人が処刑台に登って来た。
最初は顔全体を隠した黒い覆面。
次は筋肉質で幅の広い肩。
そして次は刃の切れ味ではなく、その重さで罪人の首を断つ禍々しい赤黒い錆が表面を覆った巨大な斧。
その如何にもと言った処刑執行人の風貌に愛は短い悲鳴を上げ処刑台から転がり落ちようとするが、
しかし如何にもと言った風貌の処刑執行人の後に続いていた2人が飛び出し愛を取り抑えた。
そしてその2人が暴れる愛の体を上からのし掛かり押し付け、処刑執行準備完了。
「見届けよ、これが悪の辿るべき末路なり!!!!」
合図を受けた処刑執行人が愛の首に狙いを定めて斧を頭上高く振り上げる。
「ぃ──────嫌ァァァァァァァアアア!!!!!
違う、違うよ私!!!!
私は鈴野愛なの!!!!
旧成宮家なんて知らない、旧成宮家なんて関係ない!!!!
だから、誰か、誰か──────」
助けて。
その一言は、頂点でピタリと止まった斧が反射する残酷な程に冷徹な鈍い光によって封じ込められた。
死。
この一文字が愛を埋め尽くす。
唸りを上げて振り下ろされた斧が先ずはその重みで首の骨を砕き、次に肉を潰し斬 る。
まるで第三者の立場から一秒先に訪れる自分の死に様を見たかのような、
それだけに思考が限定されているからこそリアルに描かれてしまった死の情景。
命ある生物の当然の反応として、愛は自分の死から目を逸らすため目を瞑り顔を床に擦り付けるように俯かせた。
そして、スコンと。
何やら小気味の良い音がした。
10分か、20分か。
実際には1分どころか30秒も経っていないのだが、
死を目前に極限まで感覚が研ぎ澄まされている愛にはそれ程長く感じられる時間が沈黙のまま過ぎる。
その余りに不自然な沈黙に目を開けた瞬間振り下ろされるのではないかと怯えながらも、
愛は自分に死を運んで来た処刑執行人に目を向けた。
すると、そこには。
「─────────ぁ。」
後ろまで振りかぶった斧の重さに従い、後ろへと崩れ行く処刑執行人。
見ると、眉間の位置にその巨躯からすらば頼りない程に細い一本の矢が突き刺さっていた。
更に愛の目の前で、何処からか飛来した矢に処刑執行人が眉間を的確に貫かれた事に驚いた押さえつけ役の2人が体を起こしてしまい、
これまた連続で矢がこめかみを射抜く。
最初のコメントを投稿しよう!