1章 ー無くなる平穏ー

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「はぁ…はぁ…」 10分軽く動いただけで息が上がる。 久しぶりにやるからだなんて、言い訳にもならないだろう。 単純な運動不足だ。 高校生なのに情けない話である。 帰宅部で、体育の時以外では運動しないのだ。 でも気分は大分スッキリした。 汗をTシャツの袖で拭いながら家の中に入ろうとした。 「あら? もう終わりなの?」 「! 母さん!! いつから見てたの!?」 「5分くらい前から?」 「…やめてくれよ…」 「いやぁ、あんたが珍しく庭であれをやってたからねー。懐かしくって見とれちゃったわ」 はははと笑うこの人は俺の母、縄文 ハルカ。 「懐かしいわねー。見たの何年ぶりかしら。なんかおじいちゃんのを見てる気分だったわ」 「最後に俺がやったの何年前だっけ?」 「んー、おじいちゃんが亡くなる前までやってたから…8年くらい前かしら?」 そう。俺の祖父は8年前に亡くなっている。 死因は老衰である。 おじいちゃんっ子だった俺はかなりショックを受け、おじいちゃんが亡くなってからこの格闘術から身を引いたのだ。 「どーゆー心境の変化?」 「別に…ただ」 そこで言葉が詰まる。 また気分が悪くなってきた… 俺は母からの問に答える事なくまた身体を動かし始める。 「…始まっちゃうのかなぁ…」 母のその声は俺の耳には届かなかった。
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