第1部『発車メロディと平和の国』

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「はじめまして、今日越してきた」 回廊、アパート、コンクリート。 ぼくの知らない町。 「吉田」 「吉田といいます」 立ちションをしているお婆ちゃんに貰ったポン柑を、ポケットから差し出して渡す。お隣さんはあご髭を指でならしてから、嬉しそうに口角を上げた。 「ありがとう、吉田くん、仲良くなれるといいな」 この町はしょうゆの臭いがするのだ。長い期間かけて染みついたみたいな、筑前煮を彷彿とさせる臭い。 これからぼくはこの町で、「大人」として生きていく。 何が大人か。 パンツを自分で洗濯することが大人だと思う。 思うにゃ。 カーテンがない。でもそれより晩ごはんが必要だ。 スーパーは歩いて10分、ハイハイで20分、セグウェイで8分の距離にある。 これからそのスーパーにはお世話になるのだから、お近づきのしるしに何か持ってゆこう。 ハンドイン空きカンと紙パック。 リサイクルという言葉の響きが気に入らない。とっても卑猥で下品だ。 リサイコー これからはリサイコーと言いましょう。 基本的人権に乗っ取って ぼくは友達をつくりたい。 知らない町にやってきて タヌキとお隣さんしか友達がいない 1人じゃやっぱり寂しいから 1人じゃ下ネタも言えやしない スーパーの近くに交番があったから 背の高いおまわりさんに 「友達になって下さいな」 勇気を出して言ってみたら 「いいよ、じゃあ手を繋ごうか」 笑顔でそう、言ってくれた。 「手錠で」 家に帰って飯を食う。1人でスーパーの弁当を食う。 こんなんでぼくはやっていけるのかなあ ・・・だってさ、 管理人さんは美人さんだったけど、モブはブスしかいなかったもん。 うそですごめぬなさい。 テレビには喋るミカヅキモが映ってる ぼくの物語はここから始まる。 このステーションを寝床にして、ぼくは寝たり起きたりまた寝たり繰り返してゆく。 明日は友達をつくりに行こう。 布団の中でこれからの生活を描いているうちに、ぼくの一日メは幕を閉じるのでありました。 4月○日 晴れノチ晴れ
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