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4000文字小説「達人」
典型的な木造の安普請なアパート。その一室の前に僕は立っていた。ノックをしても返事はなく、ドアノブに手をかけ回すとガチャリ、と音がなった。
「瑞穂さーん、いるんでしょ?」
僕は扉を開け、そういった。しかし返事はない。
仕方なく玄関で靴を脱ぎ、小さなキッチンを抜けると畳敷きの四畳半の室内が見渡せる。その部屋の一角でジーパンに長袖のシャツ一枚というラフな格好の女性がパソコンを前にうんうん唸っていた。これが瑞穂さんだ。
「まったく、いるならちゃんと返事をしてくださいよ」
気づいているのか、いないのか。瑞穂さんはパソコンに見入ったまま、あー、とも、うー、とも判別できない声をあげた。
ふう、と僕はため息をつきキッチンへ戻ると電気ケトルでお湯を沸かす。買ってきたドリップコーヒーは安物の割にいい匂いがするから好きだ。
ふたり分のコーヒーをいれると、瑞穂さんに片方をさしだす。瑞穂さんはそれを無言で受けとると、やっぱり画面に目を向けたまま口につけた。
こうなった瑞穂さんは放っておくより他にない。
僕は覚悟を決めるとコーヒーに口をつけた。
まったく、パズル作家っていう人種はこんな風に変な人ばかりなのだろうか。
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