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「お、おう。よろしく」
「それじゃ席戻るね」
絢羽が大きな瞳で目配せをした先では担任らしき人が教室に入ってきていた。
あれが担任かー。……って、なにあの美人。やばくね? しかも目ぇでけえ。
おお本物のパッチリ二重だ、なんて言うと絢羽に襲われるのだろうか。
先生に見とれていると、いったんきびすを返した絢羽が俺の所にかけ寄ってきて、耳元に顔を近づけ、
「アイプチのこと、口外したら、殺すから、ふふっ」
完璧な美少女づらでそう言うと自分の席に戻っていった。
やっぱり襲っちゃうんだ。
奏介は背筋がイヤにひんやりとするのを感じながら、アイプチのことは慎重に、と自分の心にそっと書き留めた。
ひんやりとした空気を制服の中にすべり込ませてくる春風。
朝ほどではないが、帰り道もそれほど暖かいといった感じではない。
目の前を歩く同じ制服を着た男子生徒たちがじゃれ合っているのを見ながら、ふと今日のことについて、木坂絢羽について気が付けば考えていた。
木坂絢羽――。いままでどうしてたんだろう。どこに住んで、どんな生活をして、どんな人と関わって……まっそんなことはゆっくり聞いてけばいっか。他に話し相手もいないんだし。
なにより、この高校に、しかも同じクラスに話せる相手がいたことはこの上ない朗報だ。それに態度は生意気だけど、目を一瞬でも奪われたことは悔しいけれど認めざるを得ない。案外この高校でも悪くないかもな。意外といいスタートじゃないか。
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