麗しの瞳

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 オナチューのいない奏介にとっては、決まり悪くて仕方ないのだ。まるですみに追い込まれたネズミのように教室の一番左後ろ、窓際の席に座り、ぽつんと一人で憂いている。 小さな池や、さびれたベンチ、不揃いな高さの木々、名前も知らないピンクの花を咲かせた植物。 窓から覗く中庭の景色だけが救いだ。こんな孤独な教室で視線のやり場に困ることがなくて本当に助かる。そんな思いで中庭に視線をとりあえず放っている。 孤独の海にすっかり沈没してしまった奏介にとって、中庭は酸素ボンベのように生命維持に必要なだけの空気を与えていた。貴重な酸素ほはき出しながら、 「ありえねぇ。なんであいつら全落ちなんだよ」  これで何度目になるのだろう。この高校に同じ中学から受かったのが、どうして自分一人だけなのかと嘆くのは。 別に自分が特別勉強できたってわけじゃなく、むしろ受けた中だと下からだったはずだ。 なのにどうして……みんな落ちちまったんだよ……。 いやに晴れた青空からきらめく日光が差し込んでくる。希望と期待に満ちた春の陽光。 生徒たちにとってはこれからの楽しく充実した光り輝く高校生活を思わせる心地の良いその光は、奏介にとって嫌みにしか感じられない。
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