麗しの瞳

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奏介の憂鬱の原因は、幸か不幸かこの高校に合格したことだ。 この高校はこのあたりで唯一の普通科。普通科に行きたければ選択肢はほとんどここしかない。もちろん、通学時間を犠牲にすればたくさん候補はあるだろうが、わざわざそんなことをするヤツは極まれだ。 そして、毎年近隣の四つの中学校出身のヤツがほぼ同数で入学者の九十九%を占めている。残り一%は引っ越し組などで二人か、多くても三人、というのが毎年の傾向……だった。 ところが、だ。なにが起こったのか、どうしてこうなったのか奏介にはさっぱり分からないが、今年、四大勢力のうちの一派は合格者若干一名。茅崎奏介一人だけなのだ。 これを嘆かずにいられようか。本来ならクラスの四分の一は友達か、そこまで行かなくとも顔くらいは知っているヤツのはずなんだ。食べ終えたカレーの皿に理不尽に残されたニンジン気分を堪能するつもりなんて毛頭一つなかった。ニンジンだっておいしいんだぞ! ビタミンAやカロテンだっていっぱい入ってるんだぞ! 好き嫌いせずに食べなさい! そんな余り物の嘆きなどにだれも耳を傾けてはくれない。手足のはえたニンジン君がうずくまり嘆いている様子が浮かぶ。  ニンジンだって……ほんのり甘くて……優しい味で……。 「ニンジンが、どうかしたの?」  突然だった。ニンジン君が早くも奈落の底に落ちて行ってしまうくらいには突然な話し掛けだった。
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