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参ったな、と智ちゃんは笑った。
「実にはバレバレか」
「そりゃ、何年智ちゃんのそばでバスケ見てきたと思ってるの?」
智ちゃんのバスケ歴=私のカメラ歴、だ。
そして、私のカメラの一番古いデータは、智ちゃんがバスケットボール片手に笑っている写真。
データをパソコンに落として、カメラからデータを削除するときも、この写真だけはいつも取っておく。
消せないのだ、なんとなく。
私のカメラとの生活の最初の思い出で、しかも被写体は小さい頃から仲良しの、大事な幼なじみ。
消さない、きっと、これから先もずっと。
「さ、気を取り直して、続けますよ。川口くん、今回」
「あのさぁ、」
突然智ちゃんは私の言葉を遮った。
「俺、後ろ向いてていい?」
ぱち、ぱちぱち。
私は3回ほど瞬きを繰り返した。
「…なに言ってるんですか?」
「実、やっぱりやりづらい」
「え?」
「そんな目で実に見つめられるのは、カメラ越しで充分」
「ちょ、ちょっと、意味わかんないよ智ちゃ…川口くん」
「そら見ろ、おまえだってやりづらいんだろ」
智ちゃんのせい、なんだけど!
「俺は、いつもの実と話がしたい」
そのくせ、そんなせりふ、そんな真剣な顔して言うなんて、卑怯だ。
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