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――よし、帰るか
帰り支度を整えたロベリアが、自身の中で呟いた。
その声は彼女だけに聞こえ、響き、消えていく。
そして、彼女は周囲を見渡した。
各教員が各々の机で慌しく仕事を行っている。
翌日の授業の準備
会議で必要となる資料の作成
更には自身が研究している内容について専念している者もいるだろう。
LCアカデミーの教員は学園の施設を自由に使っても良い。
かつ、研究で成果を上げれば補助金なども与えられる。
そういった魅力に惹かれて教員になる者も多い。
――この中で『純粋な教員』はどれほどいるのだろうか
ロベリアは、ふと考えた。
研究が出来るから、生徒を指導する教員。
教員という職を求め、生徒と向き合う教員。
彼女の考える『純粋な教員』とは後者のことである。
その比率について彼女は考えようとしたが、思考が回転する前に軽く頭を振って、その動きを止めた。
――私自身が後者に該当しないのに、何を考えているんだか……
彼女は、そう思い自嘲気味に笑う。
そして、その笑いは彼女の中にある虚しさを浮き彫りにさせた。
自分は『純粋な教員』では無い。
浮き彫りされた虚しさが文字と化して、自身に突きつけられているようだった。
自分も前者に近い位置にいるのだ、と思い知らされる。
唯一の違いは、自分が行っていることは自身の地位や名誉や興味の為では無い。
彼女が求めるのは――
「帰る……か」
ロベリアは、今度は小さな声を出して呟いた。
先程と同様に自分自身にしか聞こえていないが、それで構わなかった。
これは知らず知らずの内に止まった自身の足と気持ちを動かすスイッチのようなものであったからである。
そして、動き出した足で職員室から出ようとする。
出て行く瞬間に、彼女はアルフレッドの席を見た。
彼は書類の山に埋もれて、その姿を確認することが出来なかった。
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