蜃気楼 -1-

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「ロベリア先生、さようならー」 「あぁ、さようなら」 生徒の明るい声に、女性の教員は笑顔で答えた。 「ロベリア先生、今度デートしようよー」 「お前が私の相手をするのは十年早いな」 今度は、男子生徒が、ふざけて言ったことに彼女は口元を綻ばせ、大人の余裕を漂わせた雰囲気で相手してみせた。 発言した男子生徒も少し恥かしそうに笑って足早に去って行く。 受け持った授業が終わると、教室から生徒達は様々な表情を見せながら出て行った。 先程の会話も、教室から出て行く最中で生徒達が教員に声を掛けたものである。 この授業が、本日最後の授業であったからだろう。 生徒達からは開放感が目に見えるように表れている。 「さて……」 生徒達全員が教室から出て行くのを見送ると、教壇に立つ彼女は自身も出て行く為に、教材などの片付けを始めた。 「今日も一日が終わったな」 彼女は小さく呟いた。 既に太陽は夕日へと名前を変えようとしていた。窓からはオレンジに近くなった光りが差し込み、彼女の薄い桜色のロングヘアーを優しく輝かせた。 彼女の名前はロベリア・ヴェル。 LCアカデミーに所属する教員の一人である。 歳は若く、瞳は少し鋭いが容姿は間違いなく美人の部類に入る。 彼女の授業は生徒からの人気も高い。 それは、授業内容では無く、彼女自身の人気が高いのだ。 曲がったことの嫌いな姉御肌……彼女の性格は、この表現が当て嵌まるだろう。 男女隔てなく接し、率直な意見を言ってくれる彼女を嫌う生徒は少ない。 そんな彼女には『特徴』がある。 それは、彼女が常に修道服を着ていることであった。 首元は白く、身体を包む生地は艶やかな黒――それに彼女は毎日身を包んでいた。 彼女が修道服を着る理由は誰も知らない。それは、彼女が答えないからである。 生徒も何度も尋ねたが、彼女はいつも曖昧に答えを濁していた。 「よし。職員室へ戻るか」 ロベリアは、そう言うと教室を出た。
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