蜃気楼 -1-

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「おっ?」 「あっ……」 教室を出たロベリアは、同じく隣の教室から出て来た男と目が合った。 彼のことを彼女は知っている。 彼の名はアルフレッド・カヤック。 百期生の学年主任であり、ロベリアの同期である。 学園に教員として雇われ、研修期間から一教員として授業を受け持つまでの長い期間、彼を含む数人の同期教員と一緒にいたことがある。 今や一人前の教員として授業を行うようになってからは、学園で擦れ違うことはあっても、時間を割いて会うようなことは少なくなっていた。 「今、終わりか?」 「えぇ、そっちも?」 「あぁ」 そう言って、二人は同じ方向に向かって歩き始めた。 進行方向の都合上、ロベリアが先を歩き、少し後をアルフレッドが歩く。 「何? ストーカー?」 「どう考えても、職員室に向かっているだけだろうが」 そう言って彼は溜め息を一つ吐くと、少し歩く足を早めて彼女に追いつき、横並びになって歩く。 ロベリアは横に立った彼の横顔を見て、少しだけ口元を綻ばせると、すぐに元に戻した。 「今日は、もう仕事は終わりか?」 「えぇ、そっちは残業でしょ? お疲れ様」 「……なんで決定事項みたいに言うんだよ」 「今や、アルフレッドという名前と激務、残業は等式で繋がっているって有名でしょ?」 「その方程式を証明した奴を心底憎むよ」 テンポの良い会話を交わすと、二人は思わず笑ってしまった。
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