126人が本棚に入れています
本棚に追加
職員室のある校舎から出たロベリアを夕日が照らした。
まだ、日中は暑さを感じるが、今の時間帯になると少しだけ和らぎ、風が吹き抜けると心地良い。
その風が、光と熱を与えられ続けた草木や地面の匂いを運ぶ。だが、その匂いも真夏だった頃よりは薄く感じた。
今、運ばれているに匂いは夏の残り香といったところだろう。
「夏も終わりだな……まぁ、学園の後期は既に始まっているけど」
ロベリアは呟く。
彼女が言ったとおり、既にLCアカデミーの後期授業は始まっている。
長い夏季休暇が挟まった生徒達にとっては、後期の授業の始まりは夏の終わりだったのだろうが、短い休暇しか無かった教員達は少し違う。
このように四季の変化を敏感に感じながら、季節の変わり目を判断するのだ。
そういった点は、四季のある風の大陸で働くことのメリットかもしれない。
とはいえ、そのように感じている者は数少ないのかもしれないが――
「おっと!!」
「す、すみません!!」
ぼんやりとした意識で歩いていたロベリアが、通り過ぎようとした校舎から走り出て来た生徒とぶつかった。
「いや、こっちも注意が散漫になっていた。だが、校舎内を走るは感心しないぞ」
「そうだよ、ケイト。いくら焦っているからって気をつけないと」
ぶつかった生徒の隣にいた友人が、ロベリアの言葉に合わせて注意を行う。
「お前が急げって言ったんだろうが。葵達も既に集まってるからって」
「それでも注意はしないと。ね? 先生?」
そう言って、その生徒は笑顔をロベリアへと向けた。
学園指定の詰襟の制服を着崩し、まだ暑いのに両手には黒い手袋をしている。
不思議な雰囲気の男子生徒であった。
しかし、ロベリアの興味は、その生徒よりぶつかった生徒へと傾いていた。
それは、今聞いた彼の名前が原因である。
「君は……ケイト・ハルバートか?」
「へ? そうですけど……」
急に名前を呼ばれた金髪の生徒は驚き、目を大きく開いて彼女の顔を見ていた。
最初のコメントを投稿しよう!