蜃気楼 -1-

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職員室のある校舎から出たロベリアを夕日が照らした。 まだ、日中は暑さを感じるが、今の時間帯になると少しだけ和らぎ、風が吹き抜けると心地良い。 その風が、光と熱を与えられ続けた草木や地面の匂いを運ぶ。だが、その匂いも真夏だった頃よりは薄く感じた。 今、運ばれているに匂いは夏の残り香といったところだろう。 「夏も終わりだな……まぁ、学園の後期は既に始まっているけど」 ロベリアは呟く。 彼女が言ったとおり、既にLCアカデミーの後期授業は始まっている。 長い夏季休暇が挟まった生徒達にとっては、後期の授業の始まりは夏の終わりだったのだろうが、短い休暇しか無かった教員達は少し違う。 このように四季の変化を敏感に感じながら、季節の変わり目を判断するのだ。 そういった点は、四季のある風の大陸で働くことのメリットかもしれない。 とはいえ、そのように感じている者は数少ないのかもしれないが―― 「おっと!!」 「す、すみません!!」 ぼんやりとした意識で歩いていたロベリアが、通り過ぎようとした校舎から走り出て来た生徒とぶつかった。 「いや、こっちも注意が散漫になっていた。だが、校舎内を走るは感心しないぞ」 「そうだよ、ケイト。いくら焦っているからって気をつけないと」 ぶつかった生徒の隣にいた友人が、ロベリアの言葉に合わせて注意を行う。 「お前が急げって言ったんだろうが。葵達も既に集まってるからって」 「それでも注意はしないと。ね? 先生?」 そう言って、その生徒は笑顔をロベリアへと向けた。 学園指定の詰襟の制服を着崩し、まだ暑いのに両手には黒い手袋をしている。 不思議な雰囲気の男子生徒であった。 しかし、ロベリアの興味は、その生徒よりぶつかった生徒へと傾いていた。 それは、今聞いた彼の名前が原因である。 「君は……ケイト・ハルバートか?」 「へ? そうですけど……」 急に名前を呼ばれた金髪の生徒は驚き、目を大きく開いて彼女の顔を見ていた。
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