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 すれ違う人を避ける様に、二人で賑やかな声のする繁華街をゆっくりと後にする。 タクシーを拾う気もなく、ハッキリとした目的地もないけれど、ヒカリの手を繋いだまま歩いた。 街の声が段々小さくなってきて、ヒカリのヒールの音が響く。 「ね、2回生の時に…お祖母ちゃんの入院とテストが重なった事があったでしょ…? とりあえず帰った方がいいってミカちゃん達が言うのに、ユウだけがテストを受けろって言ったんだよ。 ばあちゃんは病院なんだから、大丈夫だろって。 来年から就活が始まるのに、単位を落とすなって。 テストを受けて帰れって… 覚えてる?」 俺の返事に期待の色が滲み出ているヒカリの顔。 「ぃや…」 ゆっくり首を傾げてヒカリから目を反らした。 やっぱりね…とヒカリがクスクス笑う。 「テストが終わった後、一緒に帰ったんだよ。 ウチでご飯食べてテレビ見て… ユウね、帰り際にばあちゃんも同じ月を見てるって言ったの。」
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