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「なんだ、顔あげられるんじゃん」
それは嫌味に聞こえる。
どこか人を馬鹿にして、自分以外を見下しているところ。
――――あいつを、思い出してしまう。
「……ごめんなさい」
耐えるのにも限界が来て、みのりはガタリと音を立てて席を立った。
カバンを勢いよくひっつかんで、帰る気満々で背を向ける。
しかし、伊吹の存在に後ろ髪を引かれて、店を出る直前で思わず足を止めてしまった。
気になっているのだから、アドレスくらい聞かなくてはもったいない。
ただ、このまま戻るのも癪なので、用もないがトイレを探しキョロキョロと周囲を見渡した。
居酒屋というには少しオシャレな店内は、たくさんの男女で溢れていた。
カップルの姿をみると、いいなと思ってしまう。
あんなに酷いフラれ方をしたと言うのに、それでもやはり、恋人はいい。
ひとりじゃない。さみしくないと思えるから。
いつかきっと、すべてを愛してくれる人に出会えるはず。
あいつはただのハズレだった。
他にもっと素敵な人が居る。絶対にいる。
そう言い聞かせてやって来た久しぶりの合コンだと言うのに。
なんだこの有様は。
「みのりちゃん」
落ちに落ちていたみのりは、呼び止められて、重たい顔をあげる。
聞き覚えのある声にきょとんとして振り返れば、気の利いた微笑みが目に飛び込んできた。
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