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この色を合成する配分を色々と模索していたのだが、原色の赤にほんの少し黒を足すという、シンプルな組み合わせの方がしっくり来ると判明した。
自分では結構上手く出来たと思うのだが、どうだ? 天太。見てみた感想は?」
(いや、どうだ?と、満足げな顔で言われても)
僕は銀河の果ての果ての果てまでも届く位の溜め息をつきたくなった。
「じゃあやっぱり真似事(フリ)じゃねぇかよ」
髪を掻きながら言うと、もももむむむと、姉貴は頬を膨らませた。
全てはこのお騒がせな姉貴の打った、頭に大とも小ともつかない芝居だった。
当然、本当に手首を切った訳ではないし、どこにも出血の痕跡らしきものは見当たらない(湯船に浸けていた左腕には、赤い水が伝っているが)。
それに辺りを良く観察してみれば、犯行に使った絵の具のチューブは、ケースごとシャンプー台の下に隠してあったりする。見事なまでに不完全犯罪だった。
着ているワンピースには赤い染みがうっすらと出来てしまっているが、それを承知でこんなことをしでかしたのだろうから、そのことについては敢あえて触れずにおいた。
彼女は大塚天華(おおつかてんか)。十六歳。今年私立高校に入学したばかりで、「将来は劇の演出家や映像作家になりたい」とのたまう、現実逃避の権化とでも呼ぶべき、愚かで実直な夢追い人(ドリーマー)だ。
認めたくはないが、先程から申し上げている通り、彼女は僕の姉貴だ。そしてこれも認めたくはないが、僕、大塚天太(てんた)はこの人の弟、ということになる。
受験を間近に控えた中学二年生である僕は、世の十六歳未満の学生達に課された義務教育と呼ばれる鎖を引き千切ったり噛み千切ったりすることなく、勉学という名の使命を全うし、時間に追われる多忙な毎日を送っている。
ハズだったのに。
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