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校庭に出てロビーの扉を閉めると、先程までの喧騒が遠のく。
学園の窓から漏れる灯りが緑の芝をオレンジ色に染める。
だが10mも進めば、そこは真っ暗だ。雲に隠れた月灯りは儚く、それが宵闇の暗さをさらに引き立てていた。
芝生を踏む小さな音と共に、ミチはそこに立つ。
背後からの音が無ければ、方向がわからなくなってしまいそうだ。
それはまるで出口の見えない隧道の様だった。
しばし闇に身を預けていると、誰かの声が聞こえる。
複数の女性の声だ。
「あなた本当は喋れるんでしょ?何で黙ってるの?」
その声は刺々しい。
振り返るとロビーへの扉の左。
窓からの光が数人の女子生徒を照らしていた。
それに対峙するかの様に壁を背に立つのはサエだ。
雰囲気は和やかではない。
サエを囲む女子生徒は四人。あの赤髪とオレンジ色の髪の女の子は同級生だが名前が思い出せない。他の女子生徒は知らない。他のクラスだろうか。
どうやらミチの存在に気が付いていないらしい。
「あなたが独り言言ってるの見たんだから!」と赤髪の女子。
"あなたには関係ない。"
そう言葉を紡ぐサエの顔からは、見た事もないほど怒っているのが分かった。女子生徒の間を縫う様に立ち去ろうとする。
きっと手話が分からないだろう他の女子生徒は呆気にとられていたが、赤髪の女子がとっさに振り返り緑に光を指に灯し、印を描き始める。
「Way wo wind(意思ある凩)」
不意打ちするつもりだ。詠唱はサエには聞こえない。
咄嗟にミチが駆け寄ろうとするが、召喚された小さな突風がサエの背中に飛んでいくのが見えた。
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