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だがその突風もサエを目の前にして消えてしまう。
赤髪の女子は驚いた様に目を見開いている。
ミチの位置からはそれが分かった。
サエから召喚された風が、向かってくる突風を相殺させたことも。
無詠唱で召喚した同じ魔法をぶつけたのだ。
ゆっくり振り返ったサエは、赤毛の女子生徒に近付いて行く。
無言で近付くサエに、他の女子生徒は後ずさった。
"私に関わらないで"
その彼女の顔は無表情だ。
対する赤髪の女子は悔しそうにサエを睨んでいる。
「……行くわよっ!」
そしてそう言うと、サエにぶつかる様にロビーへと戻って行った。他の女子生徒も慌てて後を追う。
しばしその場に立ち尽くしていたサエも、やがてロビーに戻っていった。
俯く様に歩くサエの横顔は黒髪に隠れて見えなかった。
扉の奥から祭りの様な喧騒が一瞬聞こえ、扉が閉まると再度小さくなる。
「……」
その扉を見つめ、また振り返るとやはり目の前に広がるのは真っ暗な夜の世界。
背中に聞こえるロビーの微かな音。
でもサエにはそれが聞こえない。
「あー」
ふと声を出してみる。生まれた時から聞いてきた、自分の声だ。
彼女なら、この真っ暗な世界を何を頼りに進むのだろうか。
音の無い世界を知らないミチは、それが解らなかった。
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