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森が夕日で赤く染まる頃、ミチ達は立ち止まる。
「ここからが、未開の地……」
ギンタが緊張した声で呟く。
目の前には、樹々の間に縄が繋がれ道を遮っている。
それは、アースのドラマで観た殺人事件の現場を囲う黄色いテープを連想させた。
キープアウト。立入禁止。
三つの縄を、巻きつける様にして束ねたそれは、紙垂はないが注連縄と呼ばれるものだろう。
樹から樹へ、そしてその隣へと際限なく繋がれていく注連縄は、優にヒトの胴体ほどの太さだ。
ここがピースライン。
未開の地と国土の境界線。
マナを感じるそれは、兇魔を退ける魔法が半永久的にかけられているという。どれも教書で知っていたことだ。
それでもミチ達は思わず、それを見つめてしまう。
多数のヒトが魔物の犠牲になり、それでも命を懸けて繋ぎ、国を囲む。
その何と、荘厳なことか。
悠久の時をかけ、自分達を守り続けてきたそれは、どこか幽玄なマナを感じた。
教書で見た知識でも、それは『分かっている』だけで、『解っている』とは違う。
この目で見たら、こうも感じ方が違うものなのか。
キープアウト。立入禁止は兇魔にむけて。囲まれた現場は自分達の住むこの国。
自分は、過去のヒトが繋いだ平和に囲まれていたんだ。
ミチ達は、その場でしばし黙祷した。
頬を撫でる涼風は、いつの間にか肌寒い風へと変わる。
日が、暮れる。
「予定通り、今夜はここでキャンプをしよう」
ギンタが振り返った。
夜の登山は危険が多い。それに加えここからは未開の地。兇魔が出る可能性もある。
「わかりましたっ。サエさんと私は夕飯を支度しますね。ギンタさん達は、テントと薪の準備をお願いします」
アンジュが嬉しそうに、手を叩く。サエもその言葉に頷いた。
「了解」「おーし了解っ!!」
頷くミチとギンタ。
荷物を置くと、それぞれ動きだした。
サエとアンジュは、料理が好きらしく会話も弾んでいる様子だ。
一方ミチとギンタだが、薪は簡単に集まったのだが、テントの張り方が分からず悪戦苦闘。
結局、夕飯の支度を終えたサエとアンジュの指示の元、テントを張り終えた頃にはすっかり日は沈んで、夜の帳が下りていた。
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