ギルドキャンプの注連縄

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「あぁ、ただ一度戻って母の私物をこっちに持ってこようかと思ってる。俺と母の故郷はここだから」 "ここ"。その言葉に嬉しそうに頷くギンタ。 「どういうことですか?」 アンジュが首を傾げて聞いてくる。サエも興味深そうにミチを見ている。 そうかこの二人はミチがマナリアへ来た理由を知らない。 ミチはハーブティーを一口飲むと、ぽつぽつと説明する。 母の死。そしてウルズの花の開花。アルマとの出会い。間引きの扉のこと。入学までの経緯。 そして、父はマナリアにいるだろうという直感。いや願いか。 「そんなことが……」 アンジュは驚いた様子で、口に手を当てる。 予想だにしていなかったミチの経緯に、重い空気が立ち込める。 サエは、真っ直ぐにミチを見ていた。その大きな瞳にミチの姿が映る。 しばしの沈黙の後、ゆっくりと手を動かしはじめる。 "お母さんに、逢いたい?" そして言葉を紡いだ。 「……」 言葉につまるミチ。右の眉がピクリと動くのを感じた。 父に逢いたいか?では無く、母に。 何故こんな質問を? サエの瞳には、どこか確信めいた鋭さが光る。 ギンタとアンジュも、二人の出すこの異様な空気に黙っていた。 "ごめん。変なこと聞いた" サエが後悔した様に首を振ると謝った。 「逢いたい」 だが、ミチは言葉を被せる。 三人は驚いた様にミチを見る。 逢いたい。ミチはそう言った。 そう言った自分に、驚いた。 その言葉を口に出すのは、初めてだったからだ。
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