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母が死んでから、ずっと内に秘めていた想いだ。
「母は不治の病だった」
ミチは、雨が降るようにぽつぽつと語り出した。
「でも寝たきりというわけではなかった。朝、ささいなことで喧嘩をした。いつもよくした口喧嘩だった。いってきますも言わず、家を出た。学校から戻ったら、母は死んでいた」
母の体調はその日は良かった。毎日喧嘩の傷を残し帰宅するミチを、母は心配した。
ミチはそれがもどかしかった。「自分の心配しろよ。」そう言って、家を出たのだ。
学校が終わり家に帰ると、母は眠る様に死んでいた。
「だから母に会いたい。会って、謝りたい」
ミチは後悔していた。何故喧嘩したのだろう。
いってきますと、何故言わなかったのだろう。
焚き火の炎が、目にしみる。
ミチは、静かに目を瞑る。
ギンタは真剣な瞳で、揺れる炎を見ていた。
アンジュは泣いていた。
サエは、潤んだ瞳で真っ直ぐにミチを見つめていた。
言葉少なげだったが、ミチの言葉から痛いくらいの切望がひしひしと伝わってきたのだ。
「……ありがとな」
「ありがとうございます」
"ありがとう"
三者三様だが、お礼を言われた意味が分からず怪訝そうな顔をするミチ。
「……。さーてっ!明日も早いし寝るかぁっ!」
ギンタが欠伸をしながら、立ち上がる。
「鈍感なミチさんには、分かりませんね」
アンジュも一転して、涙を拭いながら笑う。
アンジュには言われたくない。とミチは思った。
サエも出来の悪い子供を見るような意地悪な笑みを浮かべながら立ち上がる。
訳が分からず更に眉間に皺を寄せるミチに、
「じゃ、今晩の見張りは頼んだぞ。ミチ!おやすみなぁ」
ギンタはそういいながらテントに入る。
「……。わかったよ」
この展開についていけず固まってしまうが、仏頂面で手を上げるミチ。
「おやすみなさい、ミチさん」
"おやすみ"
アンジュとサエも、笑いながらテントに入っていった。
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