211人が本棚に入れています
本棚に追加
今にも消えそうな焚き火を、座りながらミチは眺めていた。
涼しい風が炎を揺らし、舞い散る火の粉が地へと落ちる。
夜の森は、静かだった。
風に擦れる樹々の枝の音の中に、薪が爆ぜる音が混ざるだけ。
ミチの背にあるテントからも、物音はしない。
皆は寝たのだろうか。
ミチの座る開けた場所は、月明かりを遮る樹は少ない。
でも今は雲が月を隠し、灯りは焚き火の炎だけだ。
「逢いたい……か」
謝りたくても、死んだ母には逢えない。
この自責の念は、誰にも告白することは無い。そう思っていた。
口にするのを恐れていたのだ。
後悔がより強くなるから。
だけど今日、初めて言葉にした。
熱いと分かっていても触れてしまう様に、胸が痛むと分かってもそれを言葉にした。
理由は簡単だ。
サエも、ギンタもアンジュも初めて出来たかけがえのない友達だからだ。
彼らになら、この気持ちを言葉にしても良いんじゃないか。
そう思えたからだ。
母に謝りたい。やはり後悔は消えることはない。
でも、何故か胸のつかえが少し下りた。
ふと辺りが明るくなり、上を見上げる。
そこには風に流れた雲の隙間から三日月が覗いていた。
少し雲に覆われたその月は、まるでミチの心の中の様だった。
明日の天気はどっちだろうか。
しばらくミチは、空を見上げていた。
最初のコメントを投稿しよう!