兇魔

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「なんだっつーの」 前を歩くギンタは、不機嫌そうに肩を上げている。 いや、実際に不機嫌なのだろう。先程までの有頂天な雰囲気も一転して、その歩調も荒くナップサックをガシャガシャと音を立てさせている。 先程、偶然出会ったチェスター一行も、この山でクエストを受けていたのだ。 薬草の採取ではなく、山頂付近にある洞窟で鉱石を集めてくるという課題であったが。 そんなチェスターの山頂付近まで共に行動しようという提案をギンタは全力で阻止にかかったが、その願いはアンジュの天然によって打ち砕かれた。 目線は前を歩くアンジュとチェスター。 というより、チェスターの背中を睨みつけている。 ギンタは、自分の立ち位置だったアンジュの隣を、すっかりチェスターに奪われてしまっていた。 「王女様。お足元にお気をつけください」 チェスターがアンジュの手を取り、"小さな"岩を超える。 チェスターは微笑んでいるつもりなのだろうが、その横顔にはへつらいの色がはっきりとみて取れる。 「ありがとうございます。チェスターさん」 ギンタの醸し出す険悪な雰囲気に気付くはずもなく、アンジュが微笑むものだから更にギンタが不機嫌になる。 思わずミチは溜息をついた。 「おい下見ないと危ないぞ」 「わぁーってるよっ!」 道も大分狭く、険しくなってきた。もう中腹は超えただろう。 案の定盛大に転けたギンタを、クシナが馬鹿にして見下し追い越していく。 時刻は昼過ぎ。この先に少し開けた場所があるはず。そこで少し遅い昼飯をとる予定だ。腹を満たせばこの剣呑な雰囲気も少しは和らぐだろうか。 ミチは再度溜息をつくのであった。
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