兇魔

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「そろそろ出発しようか」 雨が降る前に、目的地である小屋に向かいたい。そう思ったミチは立ち上がる。それに習いギンタも立ち上がる。 「チェスター達の目的地は向こうだろ?ここでお別れだな」 嬉々として言うギンタ。チェスターはそんなギンタの言葉を無視して、目線はアンジュに向けたままだ。 「どうですか?僕達が今晩泊まるテントに是非アンジュ王女様も」 そう言いながら立ち上がり、恭しく手を差し出すチェスター。 その言葉に、ギンタは唖然と口をパクパクさせている。怒りを通り越して、呆気にとられているのだろう。 ミチも驚いていた。夕方までに山頂の小屋へと到着する。そんなこっちの計画は御構い無しということだろう。 アンジュも流石にそれには驚き、苦笑いしている。 「ごめんなさい。あの……」 そう口を開きかけるが、それも止まってしまう。 特異なマナを感じたのだ。 感じたのはアンジュだけではなく、周りもそうだった。 このマナリアに住む全ての生き物には、マナが流れている。鳥や犬、ミチ達が食べる牛だってそうだ。ヒト以外のそれを総じて『魔物』と呼ぶ。 だが、この肌にぴりぴりと感じるマナは魔物のそれじゃない。 ーーコォォォッ 錆びついた金属のパイプに風を通した様な、ひび割れた鳴き声が聞こえる。 「……近い」 ミチがそう呟くと、ギンタが一歩前に出る。その指先には緑に光るマナを纏っている。攻撃するつもりだ。 ーーコォォォォォッ そのマナを感じたのか、鳴き声はいっきにこちらに近付いてきた。乱雑に草を掻き分ける音。 慌てて印を結び、音のする方へ小さな風圧の塊を放つギンタ。 --コォォォッ その風の塊は、勢いよく飛び出した黒い物体に簡単に消されてしまう。 「で、出やがった」 出てきたのは、二足で立つ狼の様な怪物。 体毛はなくつるつるの皮膚は、影の様に黒い。 その赤い瞳は、理性は感じられずミチ達を敵として睨めつけていた。 ーー兇魔だ。
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