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夜風が窓を揺らしている。
「アルマ校長、本当に行かれるのですか?」
「サマンサよ。アースにワシらの同志が待っておる」
宵の暗さの中でランプの光が揺れる影を作っていた。のっぽの人影と、小さな人影だ。
のっぽの方、アルマは窓の外を見ていた。
木が斜めに傾くほど風が強い。
アルマの背中を見ていたサマンサは、まだ疑いが拭えなかった。
アースに魔導士がいるなど、聞いたこともなかった。
「サマンサよ。賢者の石の導きなのじゃよ。ワシも確かにマナを感じた」
振り返るアルマの目は、彼のローブと同じエメラルドグリーンに輝いていた。腹まで伸びた真っ白の髭が声に合わせて少し揺れる。
アルマの右手にある机には、拳ほどの大きさの賢者の石が青く光っていた。
「事態は窮する。既に開花も始まっておる。さてさて、ワシの一張羅の帽子はどこかの?」
机に置いてある三角帽子を丁寧にかぶり、アルマは扉へと向かう。老人とは思えないほどの軽やかな足取りだった。
サマンサは毒気を抜かれたのか、いつの間にか掴んでいた橙のローブから手を離した。
「マナリアの加護があらんことを」
「上々じゃ」アルマが扉を開けた先には、夜の帳は下りていない。"朝"の空が続いている。
アースだ。
エメラルドグリーンのローブを翻し、アルマの姿はアースへと消えた。
サマンサはしばらく扉を見つめていたが、一呼吸すると眉をキリッとあげ、"もう一つ"の扉へと足を運んだ。
サマンサは考えていた。
他に前例のない、アースで育った魔法使い。
それはどんな運命を運んでくるのか。
サマンサは部屋から静かに出ていく。
部屋に残った賢者の石が、刹那強く閃いた。
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