入らない天才

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晴天の空に桜が風に吹かれ、散り始めた4月の午後。 県立明林(めいりん)高校の入学式も終わり、添木 伸哉(そえきしんや)は大勢の自分と同じ新入生が取り囲む野球部のグラウンドのそばを通りかかった。 野球部員たちの、学校中に響き渡る掛け声と金属音。一人走るごとに舞い上がる土埃。伸哉は野球場にある、音やモノの全てが好きだった。 けれど一番好きなのは学校いっぱいに響き渡る声でも無ければ、舞い上がる土埃でもない。 ならば一体何なのか。 答えはマウンドだ。土が盛られ、綺麗に整えられた野球場にそびえ立つ小高い丘。投手というたった一人のポジションの為だけに創られた、野球場で最も特別な聖域。 それが例え、高校球児の聖地である甲子園にあろうと、誰も使わない荒れ果てたグラウンドにあろうと、伸哉からすれば、その存在自体が聖域で、グラウンドの優劣は全く関係ない。 マウンドはいつも自分の為に用意されていて、マウンドも自分を常に待っている。そう伸哉は常にそう思っていた。中二の冬までは…。 「幸長(ゆきひさ)ぁ!投球練習始めっぞ!!」 しばらくすると、ゆっくりと長い茶髪をしたピッチャーが、グラウンドの角にある投球練習場のマウンドに上がった。
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