入らない天才

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マウンドに上がった幸長と言われていたピッチャーは、肩慣らしのために軽めにある程度投げたあと、キャッチャーを座らせ全力で投げ始めた。 投げる毎に聞こえてくるシュゥゥというボールの轟音とバシィィィィンと鳴り響く乾いたミットの音。周りにいた見学者もその音に歓声をあげる。 どこから聞いてもたまらなく気持ちのいい音。この投手自身の球も、中々キレがあったおかげかその音がより一層に綺麗に聞こえた。 けれど、試合中のマウンド上からいつも聞いていたもう二度と聞くことのないであろうあの音ほど響きのいい音ではなかった。 一球一球を投げるごとに音は大きくなっていった。けれどまだまだ伸哉が満足できる程の音ではなかった。 (弱いチームだって話だけど、このピッチャーからは物凄いセンスを感じる。もっといい球が投げれるはず) すると伸哉は少し投手のフォームをチェックし始めた。 「あのピッチャー。腰の捻りをもっと使えばスピードとキレがもっと上がるのに。もったいないなあ。本人は満足そうな顔をしていないから、何処かわからないけど、何かしら違和感を感じているんだろうな。ああいう時僕ならきっと……?!」 伸哉は、はっと我に帰った。 「そうやってお節介をかけたせいで深く傷つけてしまった。そうやってまた仲間を壊したくない。それに、そうならなくても、周りが……」 「……野球が好きでいたいんなら、ここから立ち去ろう」 伸哉はグランド去り、家へと帰って行った。
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