入らない天才

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「そうだよな。あいつがこんなところにくるわけないか…」 明林高校は、福岡県の南部にある高校の統廃合によって出来た、開校十年も経たないくらい、まだまだ歴史の浅い県立校だ。 毎年九州大会に出場する陸上部や、数年前に県大会ベスト8に入ったサッカー部、四年連続県ベスト16のラグビー部には、毎年その地区の有力選手の一人や二人は入ってきている。 ところが、野球部はそれらの部とは違う。 戦績は、統廃合された前学校を含めても3回戦進出が最高で、常に1回戦で負けている、野球漫画によくありがちな弱小チームだった。 そのため地元のいい選手の大半は、同地区の明林とは真逆の強豪や名門校、あるいはそこそこレベルの高い公立校に逃げられている。 たとえ有力選手が入ったとしても、九割方はもう野球はしない、と言って野球部以外の部活に属するのが殆ど。 ごくごく稀に自分を磨くため、と言って入って来る物好きな全国クラスの有力選手もいたが、周りのレベルと温度の違いでその才能も瞬く間に潰れていった。 伸哉は実力は、中学生になると地元のリトルシニアのチームに進み、中学二年の時には3A(スリーエース)と呼ばれる無敵投手陣の一角として投げ、無名のチームを全国大会準優勝に導いた、近年のシニア界では誰もが知る大投手だった。 実績を考えれば、少なくとも四つか五つ程の名門校や強豪校からのオファーが来て、何処かに行っているはず。そんなことは誰だってわかる。 ましてや、伸哉はわざわざ弱い高校に来る程の、物好きな性格ではないということを、彰久は重々承知していた。
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