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「では僕たちはそろそろ下校しないと。今日起きたことは決して他言いたしませんのでご安心を。さあ行きましょう、ケイコ先輩」
玲人はあたしの手をくいっと引いて、屋上の扉を出ようとした。
「お、おう!じゃあ黒野、また明日…」
「ちょっと待って!」
手を振って玲人に続こうとしたあたしの空いている方の手を、黒野が掴んだ。
「ひい!」
「でもやっぱり俺、木崎の鼻血を舐めたいよ!」
「いやぁん!この子眼がマジだよお!れいちゃん助けて!」
本気で追い込まれると女々しくなるあたしである。
屋上から出て校舎の影の中に入っていた玲人の目が鈍く光った。
黒野とは対照の白く華奢な手に緊張した力が入っている。
「しつこいですね…」
「閖原くん!ただの後輩ならその手を離してくれないかな?これは俺と木崎の問題なんだ。あとさっきの鼻血拭いたティッシュ、後で譲ってくれ」
「お断りします。離すのはそっちでしょう、変態生徒会長。ティッシュは一万円で売ります」
「くっ…先輩を脅す気か…?でも買ったァ!」
二人の青年に両側からぎりぎりと引っ張られ、あたしの間接は悲鳴を上げていた。
「いたいいたいいたーーーーーい!!!二人とも離せよーーーーー!!!」
「ほら、ケイコ先輩が痛がってるんですから離してあげてくださいよ」
「本当に彼女に愛情があるなら離すべきだぞ、閖原くん。昔話にもあるだろう、“先に手を離すのが本物の母親”だ」
「僕には愛情なんかありませんから」
「ほほう?なら彼女がどうなろうとどうだっていいだろう。今すぐ屋上から降りるといいよ」
「そういうわけにもいかないんですよ、ケイコ先輩とは一緒に帰る約束をしてしまったので」
あたしの精神は臨界点に達そうとしていた。
どうしてこんなことになってしまったのか、冷静に考えようとしていた。
「………わかった」
キレたあたしは二人の手を振りほどき、黒野の方に向き直った。
「先輩……?」
「木崎…もしかして了承してくれるのか!?」
「駄目です、先輩。そんなこと馬鹿げてる」
「…トマトジュースでどうよ」
黒野の表情が、喜びから疑問へと移った。
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