フェティシズム

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目を覚ますと、そこは藤波高校の屋上で、あたしは仰向けになって寝転んでいた。 白いシャツが汗でべったりと身体にへばりついている。 「ケイコ先輩ってば、また終礼サボってこんなところで寝て。悪い子ですね」 頭上で嫌な声がして、あたしは天を仰ぐ。 青白い洋人形のように端正な顔がこちらを覗きこんでいる。 「玲人ぉ」 「れいとです。漢字で呼ばないでって言ったでしょ」 「なんで漢字で呼んだってわかるのよ?」 「だって僕たちは小説の中の人間だから」 「あーはいはい…またいつもの虚言癖かぁ」 そういってあたしは上げかけた頭をごつんとコンクリートに下ろした。いたい。 「ほらほら、いいから早く起きてくださいよ。僕と一緒に帰る約束でしょう」 「そんな約束したっけ?」 「しましたよ。昼休みにゆびきりしたでしょうに」 そう言って、閖原玲人はわざとらしく溜息をついた。 この厭味ったらしい後輩は、生意気な口をきく変わり者で、入学以来しょっちゅうあたしにまとわりついている。 「あれはれいとが無理矢理…まあいいや。まだ眠いからまた今度ね」 再び眠りの態勢に入り始めたあたしの頭頂部を、玲人は容赦なくつま先で蹴った。 「いったあああ!なにすん…」 頭をさすりながら勢いよく起き上って睨みつけると、玲人はにっこりと微笑んで言った。 「約束は約束ですよ」 約半年の付き合いになるが、こいつはいまいち何を考えているのかわからない。 時折、酷く冷たい眼をすることがあるのだ。 物腰は柔らかく滅多に声を荒げることなどないが、その口調には他人に有無を言わせぬものがある。 成績も大人受けも女受けも良い優等生が、何故あたしのような劣等生につきまとうのか理解はできないが、一緒にいて気分が悪くなるような奴でもないのでほっといている。 あたしはやれやれと起き上って腰までの黒髪を整える。
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