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「ったく、しょうがないなあ。一回教室寄って鞄取ってくるから」
「鞄なら、ここに」
玲人の差し出した手にぶらさがっていたのは、あたしの人工革のスクールバックである。
「……なんであんたが持ってんのよ」
「先輩の為に気を利かせてあげたんじゃないですかぁ」
「よく上級生の教室に入れたわね?」
「先輩と同クラスの方にお願いして取ってもらったんですよ」
「お願い?誰に?」
「内緒です」
「………あっそ」
藤波高校では長幼の序を重んじる校風であり、上下関係は厳しく、下級生が上級生に気軽に頼みごとが出来る環境にない(あたしはそんなの気にしないけど)。
やっぱり底知れない奴だ。
「あれぇ?先輩ってば、もしかして嫉妬ですか?」
「断じてちがうわよ。ちゃら男に誑かされた誰かさんが可哀相だなって思ってたの」
「いいんですよ、正直に僕が好きだと言ってくれても。まあ振りますけど」
「振っちゃっていいの?あたしのこと大好きなくせに」
「嫌だなあ、やめてください。僕は先輩に好意なんて抱いてやいませんよ。ただちょっと興味があるだけで」
“ただちょっと興味がある”。人を珍しい動物か何かかと思っているのか。
あたしはスカートをぱんぱんと払いながら立ち上がり、玲人の手から鞄をひったくった。
「さ、帰ろ帰ろー」
「はい、先輩。それにしても長い髪ですね」
「まあね。そうだれいと、アイス奢ってよ」
「後輩に集る気ですか?最っ低ですね」
ぎゃはぎゃは笑いながら風雨に曝され錆びた扉のドアノブに手を掛けようとした瞬間、ドアノブがぐりゅんと回転し、勢いよく開いた扉があたしの鼻っ面を殴打した。
「ぷぎゅん!!」
「―――あ、すまん」
「すまんで済むかぁ!!」
じんじんと熱を放つ鼻をおさえながら、あたしは眼の前の犯人に噛みつくような視線と罵倒をプレゼントした。
背後では玲人が腹を抱えて笑っている。
「わ、悪かったって……あれ、木崎?」
「むう。そういうキミは生徒会長」
「なんだ木崎か……良かった」
「なんだじゃない!良くもない!!」
「元気そうじゃないか」
相手があたしと分った瞬間悪びれる様子もないこの男の名は黒野遥。
藤波高校第七十八代生徒会長を務める男である。
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