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「こんにちは、生徒会長。先程はどうも」
まだ笑いがおさまりきってないと見える玲人が、あたしの後ろから顔を出して黒野に挨拶した。
「ああ、さっきの…」
朗らかに笑みを交わしあう二人を交互に見ながら、あたしは首を傾げた。
「あんたたち知り合いだったの?何か接点あったっけ?」
「いや、さっき三年の教室の前で困ったような顔で立ってたから俺が声をかけたんだよ。そしたら…」
あたしは嫌な予感に苛まれた。
「木崎、お前に命令されて鞄を取りに来たって言うじゃないか。俺はそんなもの無視していいって言ったんだが、言いつけを守らないとどうなるか分らないからと言うんで気の毒になってな…。木崎、終礼サボって美少年をパシりに使うとはいい御身分だな?」
黒野は説教くさい口調であたしを睨みつけた。
「れいとぉ、あんたねええ……」
更にあたしは後ろにいる玲人を睨みつけた。
「なんですか?」
玲人はきょとんとしてあたしを見返す。こいつ、最低だ。
「全くお前という奴は本当にしようのない人間だな。普段からやる気というものが感じられない。一度我が剣道部に来てはどうだ?俺が心身共に叩き直してやるぞ」
「遠慮しておきますです……。ていうかね!あたしは玲人をパシりになんてした覚えはないっつうの!サボってたのは本当だけど……鞄取ってこいなんて言ってない!それはこいつが自分の意思でしたことよ!」
「どうだかなあ…?閖原玲人といえば、一年生屈指の人格者だぞ。勉強もスポーツもできて人望もある。おまけに顔もいい。そんな人間がお前と一緒にいるのがもう怪しいよ。暴力で脅してんじゃないのか?」
弱気なあたしの脚はがくがくと震えだす。
いつの間にか鼻の痛みも遠退いてしまった。
「あ、あたしの運動音痴と意気地の無さは学校一って、黒野だって知ってるでしょ?」
黒野はぷっと吹き出して爽やかに笑った
「わかってる、ちょっとからかっただけだよ。閖原くん、次はもう少し木崎らしい嘘を用意して来てくれ」
「ふふ、見透かされていましたか。さすが生徒会長ですね。考えておきます」
なんだ、からかっただけなのね。あたしはほっと胸を撫で下ろした。
一時的に忘れていた鼻の痛みも戻ってきたようだ。
ていうか心底失礼な奴らだなこいつら。あたしの周りにはろくな男がいない。
「ほんとあんたたち好い加減にして――…」
その時、胸に温かいものが顎を伝い、ぱたぱたと胸に落ちた。
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