フェティシズム

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「あ、あれ……?」 「うわ!先輩、鼻血でてますよ!」 いつも飄々としている玲人の焦る声。 あたしは指先でそうっと鼻のあたりをさわってみる。 ぬるっとした感触と、ほの温かい温度。 恐る恐る指先を見ると、真っ赤に染まっている。 「あららー、本当に鼻血だ。ねえねえれいと!あたし鼻血なんて小学生ぶりかも!」 振りむいて笑うと、玲人はただでさえ青白い顔を一層青くして鞄の中を探っている。 「はしゃいでる場合ですか!えと、ティッシュティッシュ……」 「きゃはー。なんかテンションあがるぅ!見て見て黒野!鼻血だよはな、ぢ……」 目の前に玲人以上に青白い顔の人物がいた。 「ちょ、ちょっと黒野、大丈夫?」 さっきまで楽しげに談笑していた黒野が顔面蒼白で立ちすくんでいる。 額には玉の汗が滲んでおり、身体は微かに震えていた。 「おい黒野ぉ…」 一歩近付き、黒野の震える肩に触れようとすると、彼はびくんと反応して後ずさった。 「お、俺に近付くな!」 「は…?」 化物を見るような眼で見られて少し傷ついたが、そういえばあたしの指先は血で濡れていたのだった。 ポケットからハンカチを出して手を拭い、黒野の露出した腕に触れるとなんだか嫌に体温が高かった。 「ご、ごめん。でもあんた真っ青だし熱いよ?熱でもあるのかもしれないし保健室に……」 黒野の腕が急に持ち上がり、あたしの両肩をがっしりと掴んだ。 「どどっどうした黒野?さっき近付くなって…」 熱く荒い息がかかるほど、彼はあたしに顔を寄せた。 「あの…瞳孔が開いてるよぉ…?」 「は、な、ぢ」 あたしたちの距離はゼロとなり、温かく湿った何かがあたしの顔を這った。 「何してるんですか……生徒会長」 玲人の声で、黒野の意識は戻り瞳に光が宿った。 「う、うわあ!ごめん!俺……っ」 黒野は後退り、背中を壁に打ち付けた。 「あ、あ、あ、あんたいま……あたしに何した?」 「舐めましたよね、ケイコ先輩の顔…というか鼻血」 そう言いながら、玲人はティッシュであたしの顔を拭った。それは高級なティッシュのふんわりと甘い匂いがした。 「やっぱり?あたし舐められたよね…?」 「ええ、物理的に」 「物理的に」 あたしたちはそろって黒野の方を見た。 彼は顔を真っ赤にして、手で顔を覆っていた。
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