フェティシズム

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「すまん……今起きたことはその…誰にも言わないでくれないか」 「え、ああ、えっと、まあそれは、うん、言わない。でも何で舐めたの?」 黒野はその場にずるずると崩れ落ちた。 「俺………鼻血フェチなんだ」 「鼻血………フェチ?」 「性的嗜好、ですか」 「ええと、つまり、鼻血に性的興奮を覚えるということ…なんだ」 屋上に気持ちのよい風が吹き渡り、あたしたちの汗ばんだ肌を撫でた。 「それは…アレだな」 「アレですね」 「我ながらアレだよ。…こんなことしておきながらナンだけど、皆に言触らしたりはしないで欲しいんだ。生徒会長が性倒錯者だなんて知れたら、誰もついて来てくれなくなる」 「それもそうですね」 あたしの血付きのティッシュを丸めながら、玲人は真顔でそう言った。 「そうかなー。鼻血フェチの生徒会長がいたっていいんじゃない?」 「また先輩は適当なことを…」 ガツンッと衝撃があって、気がつくとあたしは黒野に手を掴まれていた。 「ありがとう、木崎!俺の趣味を分ってくれるんだな!?」 「え、いやあの…まあ、わからなく…なくなくなくもない…かな?」 背後で玲人の深い溜息が聴こえた。 「そうか!嬉しいよ、俺!木崎、優しいんだな…」 優しくした覚えは微塵もないが、変態を怒らせるのは怖かったので黙って頷いておいた。 「木崎、優しいお前を見込んでお願いがあるんだけど」 「お、お願い?」 「俺に鼻血を供給してくれないか…?」 「いや」 「何故!」 「嫌だから!理屈じゃないから!」 「頼むよ木崎!こんなこと頼めるのは木崎だけなんだよ!」 「悪いけど無理だ!他を当たってくれ!大体鼻血を供給するってなんなんだよ!」 「舐めさせてくれるだけでいいんだ!さっきの木崎の鼻血、すごく良かった!」 「きめえ!おい玲人!この変態なんとかしてよ!」 「はー。まったく先輩は馬鹿ですねえ」 玲人は口元に笑みをたたえてあたしと黒野の間に割り込んだ。 あたしは素早く玲人の影に隠れる。 「閖原くん、悪いけど俺はいま木崎と話して…」 「冷静になってください生徒会長、鼻血なんて自由意思で出せるものではないですし、第一双方の身体に悪いですよ」 「ん、ああ…それもそうだな」 「分って頂けたみたいで嬉しいです」 玲人はにっこりと笑った。
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