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ーーどのぐらい走ったのだろう。ようやく、二人の目の前に、海辺へと続く緩い階段が現れた。二人はその階段を降りる。すると、洞窟のようになっている入江に、一艘の小さな木造のボートが係留されていた。
「急げ、奴ら、そろそろ追いつくぞ」
小さな声で、大助が男に告げる。男は杭についていたロープを解(ほど)いた。ーーその時、「おい、こっちにいたぞ!」という、兵士の叫び声が聞こえた。
「しまった!おい、冬吾!早く乗れ!」
大助がそう叫んでいる間にも、兵士たちがわらわらと崖の上から降りて来る。
「……大助。お前に、頼みたいことがある」
冬吾、と呼ばれた男は、ロープを持ち、階段の方を向いたまま、大助にそう言った。
「何だ?」
「……霞と春海に、これをーー渡してくれ」
そう言うと、冬吾はポケットから一枚のしわくちゃになった手紙を大助に渡した。
「おい、冬吾! まさか、お前ーー」
「ふ、心配すんな。もうじき、こんな糞みたいな戦争は終わるさ。それまで、島のどこかに隠れながら過ごすよ。ーーさあ、行けよ!」
そう叫び、冬吾は持っていたロープを海に投げ、ボートを足で思いっきり蹴った。すると、ボートはするすると流れに乗って、入江の出口まで流れた。
「冬吾、冬吾ーー!!」
そんな大助の叫び声を背中に聞きながら、冬吾は走りだした。ちょうどその時、数人の兵士たちが階段から降りて来て、冬吾を見つけた。
「止まれ!止まるんだ!」
その声を無視して、冬吾はひたすら走り続けた……。
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