私は日野富子

3/4
前へ
/20ページ
次へ
「富子様、だいぶ腕をあげられましたね。」 「そんな…まだまだですよ。」 「そうですか?でもそのような向上心は良い事ですよ。」 「はい。」 今日の先生はとても穏やかでした。 「でも、私がお教えする事はもうないようですね。」 「え?どういう事でしょうか?」 先生は寂しそうに笑いました。 「実は…富子様をお教えするのは今日で最後です。」 「どうしてですか…?」 「まだ内密にと念を押されましたが…ここだけの話です。」 私は先生と内緒話をするように、身を屈めました。 「富子様に縁談があります…」 私に縁談? 「お相手は私も聞いておりませんが…おそらく将軍家かと…」 実は私の家の日野家は、足利将軍御台所を何人か出していて、将軍家とは深い関係を持っておりました。 「…私が御所様の?」 御所様というのは、将軍の事です。 「私も聞いておりませんが、おそらく…」 その予想は当たってますよ、先生。と言いたい所ですが、内緒です。 「では、先生。今日で最後のお稽古とあらば、先生の琵琶の音をお聞きかせください。」 「そうですね…。では一つ。」 そう言うと、先生は琵琶を奏で出しました。 先生の琵琶の音は、何処か懐かしい気持ちにしてくれます。 目を閉じ、静かに聞き入ると、何にも考えられなくなります。 私に縁談。しかも将軍御台所…。 何だか歴史は動いているんですね…。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加