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「富子様、だいぶ腕をあげられましたね。」
「そんな…まだまだですよ。」
「そうですか?でもそのような向上心は良い事ですよ。」
「はい。」
今日の先生はとても穏やかでした。
「でも、私がお教えする事はもうないようですね。」
「え?どういう事でしょうか?」
先生は寂しそうに笑いました。
「実は…富子様をお教えするのは今日で最後です。」
「どうしてですか…?」
「まだ内密にと念を押されましたが…ここだけの話です。」
私は先生と内緒話をするように、身を屈めました。
「富子様に縁談があります…」
私に縁談?
「お相手は私も聞いておりませんが…おそらく将軍家かと…」
実は私の家の日野家は、足利将軍御台所を何人か出していて、将軍家とは深い関係を持っておりました。
「…私が御所様の?」
御所様というのは、将軍の事です。
「私も聞いておりませんが、おそらく…」
その予想は当たってますよ、先生。と言いたい所ですが、内緒です。
「では、先生。今日で最後のお稽古とあらば、先生の琵琶の音をお聞きかせください。」
「そうですね…。では一つ。」
そう言うと、先生は琵琶を奏で出しました。
先生の琵琶の音は、何処か懐かしい気持ちにしてくれます。
目を閉じ、静かに聞き入ると、何にも考えられなくなります。
私に縁談。しかも将軍御台所…。
何だか歴史は動いているんですね…。
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