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琵琶の稽古を終えた私は、自分の部屋に戻るとちょうど兄上の日野勝光様が居ました。
「富子、実はな、珍しい書物を手に入れたのじゃ。」
読書好きの私にとっては、とても嬉しい事です。
「有難う御座います!兄上!」
出来るだけ明るく振る舞い、兄上から書物を受け取ると、早速読んで見る事にしましたが、先程の先生の言葉が頭から離れず、中々内容が入って来ません。
「富子、何処か浮かない様子じゃな。」
「……そうですか?」
兄上は、少し心配そうな顔をしてます。
兄上は妹の事は手に取るように分かるのか…。
「あの、兄上。お聞きしても宜しいでしょうか?」
「何じゃ?申してみよ。」
「あの…風の噂と言いましょうか?私に縁談が持ち上がってるとか。」
「……」
何処となく兄上の顔が怖いです。
あーやだ。今すぐこの場から逃げ出したいです。
「…もう少し絶ってからと思ったがな。其方の耳に入っているのならば、仕方ないな。此方に座りなさい。」
「はい。」
私は机の上に持っていた書物を置いて、兄上の正面に座りました。
「その風の噂とやらの通り、其方に縁談がある。」
「…お相手はどなたですか?」
「将軍 足利義政様じゃ。」
「御所様?」
「そうじゃ。」
やっぱり…。
私がどう足掻こうと、私は将軍の御台所になる運命のようですね。
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