青キ星、地球ニテ。

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  ――地球は、青かった。 どこぞの地球人が宇宙から地球を眺めた際に言った言葉らしい。 純然たる事実を述べただけのようにも思える感想だが、一度でも地球という星を外側から眺めた事がある者ならば、その一文にはえもいわれぬ程の深い感動が凝縮されている事が容易に理解できる。 支えておかなければ、そのままこぼれ落ちてしまいそうな水の一滴を思わせる星。その清くて淡い青の輝きは、宇宙の果てまで探しても二つと存在しないだろう。 地球人にしては中々良い感想を残すじゃないか、と我ながら素直に感心した。 実際に言った感想とは少々違うらしい。が、詩的な表現をべらべらと並べたものよりも断然ストレートで、こちらの方が気に入っている。 作業の手を止め、下に落としていた視線を持ち上げれば、そこには吸い込まれそうになるほどに深い青。 寄せては返す波のさざめきが耳に心地よく、また、大きく息を吸い込めば肺一杯に清々しい潮の香りが満ちる。 さんさんと降りしきる夏の日差しを受けてきらきら輝く海原は、さながら宝石のようだ。 更に目を上に向ければ、海のそれとはまた違った色合いの青が広がっている。 一度眺めれば、すっと胸が晴れ、穏やかな気持ちになる蒼空。そこで気持ち良さげに漂いながら、刻一刻とその形を移ろわせる白雲。 何度でも見惚れてしまう美しさに、ほうっ、とため息が漏れた。 青い青い、空と海。 これが青の星、地球の風景。 我が母星では、ついぞ見ることが叶わなかった眺望。 それが、眼前にこれでもかというほど雄大に広がっているのだ。 初めて地球に降り立った時にこの光景を目にして、知らず知らずの内に涙が頬を伝ったのを覚えている。 ここまで胸を打ち震わせる景色は見たことがなかった。 ……だというのに。 目線を下に戻して辺りを見回せば、さらさらした砂地の上に横たわり異彩を放つ数々の物体が散見される。 空になったペットボトル。海水によって錆びた空き缶。何に使ったのか分からない発泡スチロールの塊。油が切れているらしいライター。キラリと光るガラス片。洗剤などの空き容器。しわしわになったビニール袋。捨てられた釣り道具の数々……。 見事な景観のおかげで凪いでいた胸中が、たちまちのうちに大きく荒れた。  
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