臨也と京介

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 臨也はこの時愚かしいにもほどがある行為をしてしまった。現代社会に適応して生きるには、あまりにも。  彼は洗いたかった。とりあえずワイシャツと学ランを適当に洗いたかった。だが、場所と時間が悪かった。  子供たちが集う公園。その中、もう少しで暗闇に包まれるであろう時間帯に一人の男が上半身を顕にする。要するに通報間違いなしだぜ! という格好だった。 「キャアアアアアア!!!」 「あ?」  黄色い声が聞こえた。上半身裸の特に引き締まっていない身体を声のしたほうへ向けると、中年の女性が一人おり、続けて言った。 「子供たちを襲おうとする変態よォォォォ!!! 誰か、誰かぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 「はぁ?」  なんというヒステリックばばあ。そう心に思った。  だが、この状況は正直マズイ。事実、子供はまだ公園に残っている。中には幼女もいる。  子供たちは臨也を遠目に見てはいるが大した警戒もしていない。 「ハァ・・・。あのなおばさん。俺はたまたま不幸があって服を脱いだだけだし、第一これくらいで・・・――」 「息を荒げているわ! 変質者よ!!!!」 「その『ハァ』じゃねぇよ! 何をどうしたらそう聞こえるんだ!」 「も、もしかして子供たちはフェイク!? 真の狙いは私・・・!?」 「この一瞬でどういう思考しやがった糞ババア!!!」  ギャーギャー! と二人はいがみ合う。  数分間それが続くと、中年の女性がふと腕時計を見る。すると、今までの威圧が嘘のように冷め一言だけ告げた。 「ほうれん草が私を呼んでいるわ」 「あ?」  それだけを言うと中年の女性は去った。  スーパーのセールか何かだろうが、臨也はただ一つだけ思った。 「あれが団塊世代、か・・・」  びっくりするほど意味がわからなかった。  腕に掛けていたワイシャツと学ランを見ると、すでに鳥の糞は乾いていた。  確実に世界で一番無駄かつ意味不明で何も面白くない時間を過ごしたであろう。そう思った。  だが、あの中年の女性のせいでまたも思わぬトラブルがついてきた。  ぶつぶつと愚痴っていると、目の前に誰かがやってきた。  それは誰しもが身構えしそうな水色に近い青色。きっちりと決まりの帽子を着用し、誰もが正義と称する者。  警察だった。 「ふぁっ!?」 「あー、ちょっといいかな?」 (ま、まさかとうとう京介の奴が・・・)
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