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するとアルスは懐から小枝を取り出した。
「今日もお願いしますね~」
そう言いながらその小枝を地面にさすと、
「『地の底の闇よ、私に力をお貸しください。メリルよ、魔の物を遠ざけておくれ。』」と唱える。
すると小枝がみるみるうちに太くなり葉を繁らせ白い花を咲かせた。
そして花は魔物を打ち払うという独特の香りを放つ。
「どうだった?」
「まあこれくらいは出来て当たり前だな。」
「何となくいらっとくるな、その言い方。」
「それより早く飯だ。」
「あと一日はかかるんだから食べ過ぎるなよ。」
「……。」
アルスは心の中でため息をついた。
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次の日、一人と一匹はナウサルディアの都城の天を突くかと言うほども高い胸壁を見上げていた。
「ここがナウサルディア市か、やっぱり噂通りに大きいな。」
「そりゃあそうさ。ナウサルディア街道が市の南北にのび、西には聖都セイルリアへのセイル街道、東にはエルス川東岸の平原を横断しキールへ続くキール街道が交差する、カイド王国最大の都市なんだから。」
「へぇ、そりゃそうですよね。・・・ってどちら様?」
さっきからずっと後ろにいたらしいその背中まで伸びた長いブロンドの髪の少年は慌てて名乗った。
「あ、すまない。私はシルク・コアルスだ。君は?」
「僕はアルスです。」
とそこでコアルスという名の意味を思い出す。
「…コアルスってことはコアルの領主の…も、申し訳ありませんでした!!」
作者の補足説明としてはこのカイド王国では基本的に貴族のみが姓を持つ。
しかもコアルというのは北方諸国への交易がさかんな北の街道に北西諸国への交易がさかんなコアル街道 の分岐点でナウサルディアや王都に次ぐ大都市である。その一帯の町村をも治めるコアルス家は侯爵である。
それに対しアルスは平民なのだからこの反応は当然と言える。
「あ、あぁ。確かに父はコアルの領主だ。まあ誰もこの姿を見てコアルス家のものだとは思わんのに君だけ平伏していたら私も困る。普通のしゃべり方にしてもらえないか?
ずっと話し相手がいなかったものでね。気持ち悪いというか。」
「あ、じゃあ失礼して…。」
というとアルスはすぐに平静を取り戻す。その図太い神経には感服する。
「ところで君はどこの出身?」
門を入って道を歩きながら聞かれた。
「エルサルディアの北に広がる森ですね。
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