6、忘れたい過去

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桜ちゃんが知花さまと旅立ってから、やっぱり寂しさが心の中に巣くっていた。 でも、くよくよする暇もないくらい忙しくて、おばあ様は真剣に求人を出そうか悩んでいる。 だって…どんな人が来るかまったく分からないのは怖いものね… あたしが、だけど。 「花乃ーっ!百合の間のお客さんお着きやで~?」 階段の下で叫ぶのは、今だに橋本を名乗る明美ちゃん。 明美ちゃんは、あの後やめようとしたんだけど、おばあ様が好きなように名乗ればいいと言ったんだ。 その時の明美ちゃんの涙は、忘れられないと思う。 「はーい!武さんにも知らせてくれる~?」 「了解っ!」 「あら、何ですか。その言葉使いは」 明美ちゃんに小言を言いながらも、笑ってしまっているのはおばあ様。 おばあ様は、孫が増えたようだと明美ちゃんを可愛がっている。 もし、新しい人が来るとしても、こうやって仲良く出来るような人がいいな。 不安に思っても仕方ない。 実際人手が足らなくて、板場の人にまで迷惑をかけているのが現状だもんね。 「若女将、こちらは運んでしまって良いですか?」 「あっ、それは小桜の間にお願いします」 あたしの事を若女将と呼ぶのは、新しく板場に入ったこの村出身の男の子。 …とは言っても、あたしよりは年上なんだけど…
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