#1~

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そのモノは言った。 「人が認知できることなどはこの世界に存在するすべてのうち、ほんの僅かに過ぎない。お前が見ているものは私が見ているもののほんの一部なのだ」 彼女の名はリナ。 ハルク村の貧しい羊飼いの家に生まれた彼女は、その日、ついに十五回目の誕生日を迎えてしまった。 リナの心に喜びはない。 何故なら、その日は領主であるグルンデル候の城に連れて行かれることが定められていた日だからだ。 リナの父親はリナが二歳の秋に崖から落ちて亡くなり、母は生計をたてるために村長の妾として屈辱の日々を過ごし、リナは村長の家で下女として過酷な労働を強いられていた。 母が村長の妾となったことで心ない村人たちから様々な侮辱を受けていたが、母を恨んだり蔑む気持ちはなかった。夜中に声を殺して泣く母の姿に、幼心にもその辛さを知っていたし、感謝もしていた。 リナはまだ幼いにも関わらず、村じゅうの男たちを虜にするほどの類い稀な美貌を持っていた。 夫も子どもすらいるのにも関わらず村長までもがしきりに言い寄ってきた母の美貌を受け継いだのだが、これが村の同性の妬みを受ける原因にもなっていた。
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