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#3~
そこは見たことのない世界だった。
整然と手入れの行き届いた薔薇の咲く庭園、緩やかな右回りの曲線を描く回廊、遠くから聞こえてくる穏やかな音色が奏でる旋律、微かに鼻孔をくすぐる甘い香り……
「慣れるまでは私の傍を離れないようにね」
にこやかに微笑みながらそう言ったのは、リナよりも5歳年上のワスラだ。リナの故郷、ハルク村から東に数エイク離れた街ヨルの出身だと言う彼女もまたリナと同じくグルンデル候に見初められ妾として召し抱えられた女性だ。
綺麗な亜麻色の髪に透き通るような白い肌、優しげな微笑を湛えた泉の女神のような美貌。
「ここが食堂。あそこにいる給仕係に言えばいつでも好きな料理が食べられるわ」
ワスラの言葉に呼ばれたのかと思った給仕の少女がリナたちのもとに駆け寄ろうとしたのを、ワスラはなめらかな仕草でそっと制する。
「ここの料理はどれも美味しいけど、食べ過ぎてはダメよ」
「はい、気をつけます」
ふふっと笑うワスラの笑顔にリナも思わず笑みを浮かべた。
初めての場所に連れて来られて、次から次へと目の当たりにする見たこともない圧巻の世界にすっかりと気圧されていたリナだったがワスラが纏う穏やかなオーラに、いつの間にか緊張を解いていた。
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