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グルンデル候は王国で十二人しかいない将軍の官位を持つ武官だ。 その領地は王都の西にあり、「魔の巣」と呼ばれるハマン山脈に隣接している。 古くから悪魔が棲むと言われるこの地には、王国の権威も届かない山の民が住んでおり、独特の文化圏を築いている。 彼らは麓に暮らす人々を平地の民と呼び、山への浸入を拒んでいた。 しかし、麓の村や街が王国に併合されてから後、王国は魔の巣をも支配下に収めんと数回に渡って侵攻軍を送り込んでいる。 自然の地形を巧妙に利用した山の民の砦は攻めるに難く、戦いは十数年の月日が過ぎてなお膠着していた。 グルンデル候は魔の巣に隣接する地の領主ではあったが、魔の巣攻略の司令官は彼ではない。 現在の司令官は王都より派遣されたクルート将軍だ。 グルンデル候の兵士は麓の街や村を警護し、侵攻の隙をついて山の民が反撃に出る事態を防ぎながら攻略軍に物資の補給などの後方支援を受け持っている。 幾多の戦役で名をあげ、勇猛で知られるグルンデル候らしくないと言う者もいるが、これはグルンデル候の政略でもあった。 山の民を制圧するには多大な犠牲を払う必要がある。資金、物資、兵士……さらに攻略に失敗すれば華々しい戦歴に傷もつく。反面で攻略を果たしたところで得られるのは領地としての価値も低い険しい山々だけ。 彼らの強さを知るからこその対応だった。
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